中学生の汗と涙と・・・

私は野球というスポーツが苦手である。実際にプレーするのはもちろん、観戦するのも

苦手。なぜか?・・・どうも間がありすぎて気だるい。見ていて時間がもったいなく感じる

のだ。中学・高校・大学、このすべての学生時代をハンドボールという極めてマイナー

なスポーツに身を投じて育ったせいか、スピード感がないとダメ。いったん始めたらの

めりこんでしまう性質だ。他のスポーツには目もくれない。一心にハンドボールを愛しつ

づけた。そのはねっ返りが『野球嫌い』という今の自分を作り上げたようである。もちろ

        んこれは何の根拠もない偏見だ。野球好きの方々、ゴメンナサイ。



さて、こんな具合だから心の底から「オモシロイ!」と感じた野球の試合は片手で数える

ほどしかない。その中の一つが今日あった。イヤイヤながら球場に足を運んだ。観た!

感動した!そして泣いた。中学3年になる息子の最後の試合である。最近この男は熱い。

いい味だしている。野球嫌いの父親も最後の試合とあっては見に行かないわけにはゆか

ぬ。たまたま午前中の家庭教師の仕事がキャンセルになった。これも天のお導きか?

今までなら何をおいてもキス釣りに出かけるところだが、釣りはいつでもできる。たまには

嫌いなものでもじっくり付き合ってみることは必要だ。結果、行ってよかった。


息子たちの中学校野球部は弱小チームだった。それを前監督がまとまりのあるチームに

仕上げ、さあこれからというときにある出来事が。前監督の転勤・・・まさに運命のいたずら

だ。子供たちは動揺した。そしてこのチームを引き継いだ後任の先生は戸惑った。あまり

にも前監督の影が尾を引いているのだ。中学生といえどもまだまだ子供だ。前監督になつ

きすぎていたのである。指導者が代わった、という理由だけで野球部を辞める者、練習に

来ない者が続出した。新任監督はまさにチーム全員に総しかとされた状態。さぞかし精神

的にきつかったであろう。キャプテンを務めている我が息子は立場上練習には参加するも

のの、気が乗らないようだった。帰宅すると「前の先生の方がよかった」とボソボソ愚痴る

日々が続いた。そのあまりのやる気なさに親父として怒りが爆発した。怒り飛ばした。つい

この4月のことである。「なぜ今の先生じゃいけないんだ!」・・・・返事が返って来ない。特に

理由はないのである。ただ前の監督がよかっただけ。これは今の監督を否定する理由には

なりえない。まさに理不尽である。私の『野球嫌い』と同じ理論だ。私も恥ずかしい。



こんな日々がいつ頃まで続いたのだろうか?よく覚えていないが、自然消滅?それともまだ

くすぶってるのか?とにかく今の監督が着任してする試合ことごとく負け。連敗の山が築かれ

た。その状態がますます監督を精神的窮地に追いやってしまったであろうことは想像に難く

ない。生徒も心の中では負けを新任監督のせいにしていたのではないだろうか。ますます

チームワークは乱れて行く。私の塾に通ってきている野球部の連中の間では、今日の最後

の試合に向けて、「早く負けて楽になろうや」といった類の会話も聞かれ始めた。何と言う

腐った根性か!また怒りが・・・・。親もあきらめた。どうしようもない、と思っていた。



さて、試合当日がやってきた。こんな経緯があったため、見に行くことにはあまり乗り気では

なかったのだが・・・。いよいよプレーボールのサイレンが。このチームにはピッチャーが2人。

うち1人は私の息子。今日は先発だ。第1投・・・ボール!第2投・・・ボール!ノーコンだ。

球が荒れている。いったん荒れ始めると始末に負えなくなる投手だ。オマケにもう1人の

ピッチャーも同じ性質だそうだ。監督も頭が痛い。結局フォアボール、ワイルドピッチが続出

し、相手チームはこちらのミスだけで1点、2点、2点・・・と得点を重ねていく。最後の記念に

とビデオ撮影をしていた家内はたまりかねてスイッチをオフ。撮影中止。ところが打線はよか

った。取られた裏の回にはほぼ得点を入れる。が、また表で失点。ほとんどすべて息子の

ミスだ。息子はたびたび監督にピッチャー交代を要請している。スタンドで見ていても目がベ

ンチに訴えかけている。もう精神的にも限界か?ついにピッチャー交代だ。コイツは安定して

いる。よかった。今日は調子がいいようだ。が、状況はあまり変わらない。今度は守備のミ

スが続く。常に取られたあとを追う格好で試合はついに最終回へ。その表、相手チームに1点

取られてしまった。もうダメか。あきらめかけたが応援だ!願いが通じたか、その裏同点に

追いつく。延長戦だ。中学校の延長戦はサドンデスである。初めて知った。ランナーを満塁

にしてプレーボールする。応援する方も緊張してしまう。延長8回の表(中学は7回が最終

回)、またまた守りのミスで1点献上。が、その裏1点取り返し、延長9回、今度はヒットと

押し出しで2点取られてしまった。これで終わりだー、と思った。ところが運命の皮肉が。

その裏、これまでほとんど失投してなかった相手ピッチャーがワイルドピッチ。これで1点。

続くバッターが2者を帰す劇的なヒットを放ち逆転サヨナラだ。思わず心の底から

「うっしゃー、よくやったー!」 隣に座っていたお母さん連中はもう大変。「キャー、ウッキ

ッキャー、ウwwwwッワー・・・・」言葉になってない。子供たちに祝福の言葉をかけるため

グランド際へスタンドを降りる。足が震えた。最後のバッター・・・息子の仲のいい友達だ。

おとなしい子であるが、このときはすばらしい笑顔、会心の笑顔だ。じつにいい!息子が

泣いた。私も泣いた。「よよよがっだだだななななーーー」 労をねぎらう言葉が震える。

二人とも泣き虫である。変なところが似るものだ。



「お前ら、今日は入場料取ってもいいくらいすばらしい試合してくれたのー。ありがとう。」

監督の言葉がやさしく彼らの労をねぎらう。お礼を言いたいのはこちらの方だ。

精神的にしんどい時期を乗り越えてよくぞココまでチームをまとめてくれました。

ほんとうにありがとう。子供たちの監督を見つめる目には、すでにこれまでの理不尽な

不信感は消えていた。すがすがしい笑顔だ。みんなで勝ち取った勝利。チームプレイの

醍醐味がここにある。理屈抜きでいい!今日はビールが美味い。