A Sand Ship (Yamanaka Chihiro Piano Trio)
「男と女の間には〜、深くて暗い河がーある〜」・・・こんな歌詞だったかなぁ〜、
「黒の舟歌」、みなさんご存知です?深〜い深〜い歌詞と曲調。ずいぶん昔の歌ですが、
何といいましょうか、日本人には何となくこういう深みに嵌りたいという本能のような
ものがあるのではないでしょうか?何事も表面的には処理したくない、もっとその奥底
に流れる人間のサガとか真理なるものを哲学したい、という欲求が他国民に比べて日本
人には強いように感じます。その国民性を代表する歌い手として挙げられるのは中島
みゆき。彼女の歌、なんであんなに心の深みをえぐるのでしょうか。私、とくに彼女の
ファンというわけではございませんが、折に触れて耳にする彼女の歌はまさしくどれも
「黒の舟歌」なのですねー。暗〜い暗〜い曲調、クライマックスではそれをさらに
落とし込んで心の奥底をえぐるようなサビ。これが(私だけでしょうか?)日本人には
たまらない「泣き」の部分なのです。はたしてこのような曲がユニヴァーサルに受け入
れられるかは別としまして、少なくとも日本人、グッと絞れば少なくとも私(こりゃ絞
り過ぎ??)の心の深いところに突き刺さる曲調&歌詞なのでありますなー。
さて、こういう曲を歌詞抜きでやったらどのようなことに・・・・?かなり難題であろう
かと思われますが、やってくれる人はやってくれますよねっ。山中千尋。2〜3年前だっ
たかなー、デビューは?ジャケ買いという言葉がありますよねっ。通常これは「ジャケッ
トの表紙を飾る写真とか絵に芸術性を直感してそのCDを買う」という意味でありましょう
が、スケベオヤジであります私は、裏ジャケットにチラリと見えた山中千尋の顔写真を
ほじくるようにして眺め、それでは飽き足らず、カヴァーのシールはがして中表紙をめく
ってみると、「あるではないですか」顔写真のアップが〜。「おー、なかなかキレイな
ネエチャンじゃーないのー!」・・・申しわけございません、これがこの中山千尋ピアノ
トリオのデビュー・アルバム「Living Without Friday」を買った経緯でございます。
で、その中身ですが、すばらしいでっす。あんな不純な動機で購入したにもかかわらず、
天罰が下るどころか、神は我にご褒美を〜・・・・。中でもこの「A Sand Ship」、深い
っすねー。ジャズ的にはどうのこうのといわれそうですが、ピアノ曲としましてはじつに
奥深い響きを持っておりますし、彼女の流れるようなアドリヴ・フレーズには心奪われて
しまいますなー。まさに「深くて暗い河」があります、この演奏には。もちろん、まだま
だデビュー作ですからして、ぎこちない演奏も含まれておりますが、それは彼女の裏ジャ
ケットと中表紙の美しい顔写真が相殺してくれます(笑)。彼女の持ち味はそのダイナミ
ックなピアノタッチにありますが、私個人といたしましては、「黒の舟歌」路線をもっと
全面に打ち出して、日本人だけの山中千尋、いやもっと言えば「私だけの山中千尋」で
ありつづけて欲しいなぁ〜。極々私見ではございますが、「A Sand Ship」とか、「Cry Me
A River」といったような、暗い深い曲が彼女には合ってるように思います。もちろん、
そのようなひん曲がった見方は無視していただいて、山中千尋という美人ジャズピアニスト
の魅力を存分に味わえる1枚でありますよ、このアルバム。決して軟弱ではありません。
軽やかさあり、深みあり、ダイナミックあり、と内容的にも充実した1枚であります。
彼女を語るにはもうすでに時遅しという感ありですが、ちょっとブームが去ったときに
その人の価値を再確認するというのが好きなもので・・・・。